博報堂とAIと<br>クリエイティビティ
  • 森 正弥
    森 正弥
    株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員Chief AI Officer
    Human-Centered AI Institute代表

    外資系コンサルティング会社やインターネット会社、グローバルプロフェッショナルグループにてAIおよび先端技術を活用した企業・産業支援に従事。2024年より現職。
    参考記事:https://seikatsusha-ddm.com/author/14665/

  • 森本 拓郎
    森本 拓郎
    株式会社博報堂 AIビジネスプロデュース局
    局長

    入社後、3年半のストラテジックプラニング職を経て、営業職(現・ビジネスプロデュース職)としてクライアントの課題解決に従事。2026年4月より、新設されたAIビジネスプロデュース局で局長を務める。

  • 安保 鉄也
    安保 鉄也
    株式会社博報堂 人事室
    室長

    法務、総務等のコーポレート領域を中心にキャリアを歩み、2022年より人事部門にて室長を務める。

Interview1

AIは広告をどう進化させるか

—— 博報堂DYホールディングスのChief AI Officerに就任する形で森さんは博報堂DYグループにジョインされましたが、そんな森さんに「AIは広告業界をどう変えていくのか」を率直に伺いたいです。
森

私は、AIは2つの側面で広告業界を変えていくと思います。
まず1つ目は「オートメーション」。これはみなさんがイメージされるような、AIによる自動化・効率化・高速化がさらに進むことを指しています。
2つ目は、AIによって「コラボレーション」が加速していくということです。AIによって広告は,一方的な情報発信の手段からAIが関与する対話の主体へと進化していくと思います。この進化は、生活者を巻き込み、新しいビジネスや産業を共同創造するコラボレーションの基盤となる、と考えています。

森本

森本

コラボレーションとは何かについてもう少し詳しく伺っても良いですか?

森

例えばこれまでの広告業界の業務フローは戦略立案・クリエイティブ・メディア等のエキスパートによる専門性のリレーでした。それがAIの登場によって、クリエイティブのノウハウを戦略立案に活かしたり、戦略立案のノウハウをそのメディア運用にも活かしたり、職種間の壁が良い意味で融解していくと思うんです。
これは、クライアントと広告会社のコラボレーションや、ひいては広告会社と生活者のコラボレーションに繋がるんじゃないかなと私は思っています。特定のキャンペーンやブランドを担当する単なる受発注の関係ではなく、1つのテーブルで事業そのものをどう進化させていくか、をフラットに議論するパートナーに広告会社は変化していくと思います。


「AI-POWERED CREATIVITY」コンセプトムービー

安保

安保

博報堂の“越境”文化が、AIによってさらに社外のフィールドにも広がっていくということなんですね。

森

もう一つ大事なことが、これまでのAI開発は、「AIは何ができるか」という能力の追求に重点が置かれてきましたが、これからにおいては「人間はAIと何をするか」の重要性がより増してくるということです。
生活者の視点、すなわち「生活者発想」が必須となっています。博報堂が培ってきた生活者発想をAIと融合させることで、人間中心のAI(Human-Centered AI)をアップグレードさせ、社会や生活者に役立つビジョンを示すことが重要である考えています。

博報堂DYホールディングスにHuman-Centered AIという人間中心のAIを研究する専門機関を立ち上げたのもそうした背景からです。


「Human-Centered AI」コンセプトムービー

HCAI公式HP

AIを単なるオートメーション(自動化)として大量生産や無人化・効率化にだけ使うのではなく、博報堂が目指すのは、AIによって人間のまだ見ぬ総合力や才能を解放する「オーギュメンテーション(拡張)」であり、これがHuman-Centered AI(HCAI)の根幹だと考えています。


Interview2

AI時代の博報堂の提供価値とは?

—— 森さんからAIが広告会社をどう変えていくのか、というテーマでお話いただきましたが、実際の現在のビジネスの現場の話も是非お聞きしたいです。
安保

安保

様々な機能を持つAIの登場によって、クライアントが広告事業を内製化し始めるのでは、という声も一部では出ています。今後のビジネスの現場で博報堂がどう価値発揮していくのかを、クライアントと向き合う最前線に立っている森本さんに聞いてみたいです。

森本

森本

もちろん色々な意見もあると思うのですが、やっぱり僕らしかできないものがあるなと日々の業務で実感しています。まずは、クライアントが抱える課題の戦略立案から生活者に届く実装まで走りきる、多様なステークホルダーをマネジメントする力=「オーケストレーション力」です。

複数のクライアントの部署をつないだり、協力会社、ときには地方自治体なども含めてまとめ上げたり、向き合う課題が大きかったり複雑になったりするほど、博報堂の「オーケストレーション力」が期待されていることは多いと感じています。
このオーケストレーション力に、AIによる業務プロセス統合を掛け合わせることで課題解決のPDCAがより高度化/高速化していくと思います。

安保

安保

AI は一定以上の答えは返ってくるけど、最終的にはプロジェクトを推進したり、覚悟を決めて意志決定する、という領域はAIではできないところ。
最後その決断していく場面も含めて、人が介在しないとできないところをクライアントと一緒に推進していく力は、博報堂がこれまで培ってきた武器でもあり、これからの時代の勝ち筋にもなると思いました。

森本

森本

もう一つ博報堂が提供できる価値としては「問いを立てる力」は大きいと思います。
AIが何でも答えてくれる時代において、そもそも何を問うのか、ということですよね。

森本

森本

生活者発想を通じて問いを立てたうえで、テクノロジーを使ってその課題解決のプロセスを高速で回す、解決するための答えが高度化するからこそ、さらに博報堂が課題解決に取り組めるフィールドは広がっていくと思います。
<博報堂の生活者発想>フィロソフィーについて

森

テクノロジーが進化し、あらゆる業務プロセスにAIが組み込まれるようになった今だからこそ私たちは「人間にしかできないこと」を改めて定義し直す必要があります。

仕事のプロセスを「0から100」で捉えたとき、AIは中間の工程を驚異的なスピードでこなしてくれます。しかし、「そもそも何のために、誰に、何を問いかけるのか」という「0から1」を創り出す力と、こだわりを持って自分たちだけの「99から100」を完成させる力。この最初と最後の一歩は、人間だからできることだと思います。

もう少し細かくすると、AIが高度化するほど陥りやすいのが「同質化」という罠です。AIは膨大なデータから正解に近いものを導き出しますが、それは裏を返せば「誰もが辿り着く平均的な答え」になりえること。アウトプットの精度が上がる一方で、個性の分散は縮まっていく。だからこそ、AIが出した「99点」の正解で満足せず、そこから一歩踏み出して、自分たちにしか作れない「100点」へと引き上げるクリエイティビティが、これからのビジネスの勝負所になります。

森本

森本

先ほどの「オーケストレーション力」と合わせて、博報堂はクライアントや生活者の課題を発見する力が伝統的に強い会社だと思っています。新しいことが生まれる時って、生活の中の何気ない時に感じた違和感や発見に基づいていると思います。 それが生活者発想だなと。AI は人格を持って生活はしないけど、僕たちは毎日、ちゃんと生活している。生活の中こそに、AIにはない博報堂のクリエイティブの種がたくさんあると思っています。

安保

安保

博報堂のクリエイティビティの源泉は問いを立てる力。日常の生活の中で「0→1」の違和感を発見して、問いを立てる。そこからテクノロジーも使って高速でPDCAを回しながら「99→100」に決め切るということを得意先と一緒にやっていけるか。ここが大事。

森本

森本

「生活者価値デザイン」って、これまで問いを立てていなかったものに意味を見出して言葉にすることで、生活者の日常にポジティブな感情や豊かさを届けるアイデアを実装して、生活者の心を動かしていくことだなと思っています。


Interview3

AIが博報堂にどう導入されてきているか

—— 実際にAIが博報堂のビジネスにもたらすものについて、実際の現場の様子なども踏まえて教えてください。
森本

森本

先ほど森さんからあったように、AIの導入によって、例えば戦略立案の担当がクリエイティブ業務も兼任するなど「多機能化」が進んでいます。実際に、2年目のビジネスプロデュース職社員でも、AIを組み込んだプラニングツールを使って、戦略やメディアの領域までクライアントにプレゼンをする、というケースも生まれています。またクライアント側もAIを業務に取り入れるケースが増加しており、博報堂はそのような業務もご支援させていただくことがありますが、結果として広告会社とクライアントが今まで以上に、ワンテーブルでAIソリューションを組み込んだ業務プロセスを共同で進めていくような関係性に変化してきています。
博報堂公式HP 「テクノロジービジネス」​

安保

安保

まず「基礎を学ぶ」というステップももちろん大切ですが、テクノロジーによって成長のスピード自体が上がっています。人事としても、若い社員が早い段階から上流から下流までを経験できる環境づくりや成長機会の仕組みづくりが大事だと考えています。

森本

森本

私が所属する組織のグループでは、博報堂の他のさまざまな組織にテックスタッフやプロデューサーが伴走し、全社員がテクノロジーをまとって得意先の課題解決をすることを目指しています。
私の部門では、AIの開発スキルを活かしながら、クライアントの課題解決のプロデュースを担っているメンバーもいます。そのメンバーは、社内の営業や、クライアントの問題意識をヒアリングして、その場ですぐにはプレゼンデッキやモックを作ってってディスカッションしよう、というくらいのスピードで伴走していくことを目標にしています。
私はそんな流れが今後全社に広がっていけば良いと思っています。AIによって一人一人が統合的にプラニングもプロデュースもできるようになることで、博報堂は課題解決を担う組織としてより進化していけると思います。まずは僕らのチームがその先頭を走りたいと思っています。

安保

安保

慎重に考える必要があるけれど、現場の仕事とテクノロジーを融合させながら加速させていきたいですね。

森本

森本

ただ、あとは、どんなに効率的なシミュレーションの答えが出たとしても、最後は決めるのは人が決めないといけなければいけません。本当に生活者の心を動かせますか?という問いをしっかり持ち続けること、深みのある答えを出す、豊かな未来を目指していく為に生活者発想が改めて大事だと思います。


Interview4

学生の皆さんへメッセージ

—— 最後に、就職活動に取り組む皆さんにメッセージをお願いします!
森

私は人間にあってAIに無いものは、“視点”だと考えています。
AIはあらゆる問題解決ができるように作られているからこそ、特定の人の視点に立つということがデフォルトではできません。「あなたはプロのマーケターだ」とプロンプトで書いたら、マーケティングプランの精度が上がった、というのはAI に視点がないことを表す一つの例だと思います。

視点とは生きている人間の「経験」と「共感力」ですし、博報堂が長年培ってきた「生活者発想」そのものだとも思います。ぜひ就職活動や社会に出てからの様々な機会で、「経験」や「共感力」に基づいた皆さんご自身の「視点」を等身大の言葉でぶつけてきてください。

森本

森本

AIによる自動化=オートメーションによって世の中の同質化が進んでくると、最後は自分の熱量や内なる想い=アスピレーションをアウトプットに加えられるかが、より一層大事になると思うんですよ。なぜなら人が意思決定をする時に、どんなに正論だけを綺麗に並べられてもそれだけでは中々人の心は動かないから。

どんなテクノロジーが登場してきても、最後に一番大事になるこの“熱量”を持った人が入ってきてくれたら、博報堂はもっと良い会社になると思いますし、その一人ひとりの熱量を上手く形にしていけるよう、私も新入社員や学生の皆さんに向き合っていきたいと思います。

安保

安保

博報堂としても企業ビジョンで、「心を動かす」ということを掲げていますが、AI を含めた最新テクノロジーを活用しながらどのように心を動かしていくか、を考えるのがこれからの広告会社だと思います。
「心を動かす」ことに興味や熱量を持っている方々が来てくださると、絶対楽しいことができる環境だと私は思いますし、そういう環境をこれからも人事としてもしっかりと整えていきます。

森

最後の最後に、全然関係の無い話に飛ぶのですが、テニスってすごい進化をしているんですよ。
テニスのラケットのガット(ストリング)の部分は1990年代頃までは普通の天然素材の糸やナイロン製の糸だったのが、2000年代以降ポリエステル素材が急速に普及したことで誰もがトップスピンがかけられるようになり、軌道制御までできるようになった。それによってどこに落とすかっていう二次元の戦い方から軌道制御する三次元の戦い方に変わり、テニスのゲーム自体が全然違うものになってしまったんですよね。

同じように、僕はこれから新しく生まれてくる技術によって、マーケティングの在り方やビジネスの在り方も変わっていくと思っています。
その中でどんな世界を創っていくのか。どう世界をデザインをしていくのか。
それはこれからの時代を生きていく人たちの仕事だと思うので、今までにない新しいマーケティングやクリエイティブの形を生み出してくれたらいいな、と思っています。

森本

森本

唐突なテニスの話(笑)

安保

安保

(笑)