どんな市場をつくりたい?:ビアリー

アサヒビールとともに商品開発に携わった「ビアリー」は、「微アル」という新ジャンルを世の中に打ち出した画期的な商品だ。お酒を飲みたい人もあまり飲まない人も一緒に楽しめる場を生み出し、家飲みのスタイルにも変化をもたらした。商品開発の段階からチームとして並走し、生活者の潜在的なニーズをくみ取り、まったく新しいジャンルを世に出すというチャレンジ。そこには、メーカーと広告会社の垣根を超えたパートナーシップがあった。

従来、世の中にはお酒(アルコール度数1%以上)と、ノンアルコール飲料の2種類しかなかった。しかし、若者のビール離れが叫ばれるなか、これまでの飲料だけに固執するわけにはいかない。「お酒とノンアル以外の選択肢もありえるのでは」との問いからプロジェクトが始まった。折しも海外では、あえてアルコールを飲まない文化・ソバーキュリアスが広がり始めていた。新商品は、アルコール度数の低い0.5%のビールテイスト飲料に決定。それは、ビールをつくった後にアルコールを抜くという新技術を前提としたものだった。当初は、“アルコールを抜く”という工程から、“脱アル”というイメージにとらわれたが、「0.5%しかない」という消極的な選択肢ではなく「0.5%ある」という積極的な体験にする、そこにこそ市場を拓くカギがあるという確信に変わった。

0.5%のアルコールがあることを前向きな価値に変換するため、「脱アル」ではなく「微アル」というジャンル名を定義。微笑や微酔などちょっと気持ちが高まるときに使われる「微」という漢字が、理想とする利用シーンにフィットした。商品名は、微アルをスムーズに想起させるよう「ビアリー」と名付けた。パッケージデザインは黒を基調にし、アルコールの本格感を打ち出すものに。PRにおいては、これまで飲めなかったシーンでも前向きに楽しめるよう、身近な生活シーンを想起させることを意識した。結果、口コミで広まり、居酒屋でも置かれるように。「こんな商品がほしかった」「今の気分にちょうどいい」、そんな反響の数々は、新しい市場の始まりを予感させた。

広告会社の純粋な広告業の枠を超え、より広い領域で真価を発揮できるようになった。その根底にあるのは、徹底した生活者発想である。一方で、それだけではうまくいかない。大きな企業を動かすためには、どれだけ相手の立場になり、置かれている状況を考え、障害を取り除けるかも大事な視点である。独りよがりにならずにチームとして着実に前に進めていくことは、プロジェクトの中で大事にしてきた。その思いは、商品を生み出す過程においても変わらない。つくり手の発想だけではなく、生活者の気持ちを汲み取り、丁寧なコミュニケーションを心がける。そんな一歩ずつの積み重ねが新しいアルコール文化を形作ってきた。もちろんそこには、どんな時も理想の未来を思い描くチームメンバーやクライアントの熱い思いと、ワンチームの精神は欠かせない。