
チームが大事にしているのが、今の社会を映し出す同時代性だ。初年度は30種目の部活生に取材。以降も毎年インタビューを実施し、高校生をとりまく環境や潜在的な意識を丁寧に汲み取った。2022年になり見えてきたのは、コロナによる制限を淡々と受け入れる高校生の姿。彼らにとっては、コロナ禍の“非日常”が3年間過ごしてきた“日常”なのだ。「それでも、」マスクの内側からもらす「やっぱり1回ぐらい家族や友達に応援に来てもらいたかった」という本音が何よりも真に迫っていた。そこで、制限が当たり前の世界で頑張ってきたことを讃えるだけでなく、高校生たちが胸のうちに秘めた熱意や思いまでを代弁することで、より深い共感を呼ぶ表現を模索した。
目指したのは、淡々とした日常と忍ばせた本音の印象的な対比だ。マスクをして走る朝練に、1人ずつパーテーションで区切られた教室の席……。高校生の日常の風景に、エモーショナルなポエトリーリーディングの楽曲を重ねた。朗読のような歌唱スタイルだからこそ「修学旅行に行きたかったなぁ」と吐露される本音が響く。等身大の高校生の声を代弁できるよう、アーティストとともに何度も歌詞の調整を繰り返した。ムービー中に登場するアクリル板には、学生たちにあふれる思いをつづってもらった。4分20秒という、広告表現としては長尺の映像でも、1コマも違和感のないリアリティにこだわった。
公開するたびに大きな反響がある「カロリーメイト」シリーズ。メディアやSNSを通じて、過去の同シリーズの動画が再び脚光を浴びることも多い。カロリーメイトの「努力を肯定する」というブレないメッセージと、博報堂の表現力をかけ合わせた結果だ。企画会議では、はじめに「何を言うべきか」から全員で話し合う。スペシャリストが集うチームでも、根本に据える思いを全員が信じられなければ、博報堂の真価は発揮されない。職種に関係なくフラットに意見を交わすなかで意志を統一し、共通認識をつくりあげていく。そんな、思いを形にするうえでの妥協のない姿勢がクライアントに伝わり、信頼へとつながったときはじめて、真に心を揺さぶるクリエイティブが生まれる。