注文をまちがえる料理店
ある日、前代未聞のレストランが現れた。その名も「注文をまちがえる料理店」。働くホールスタッフ全員が認知症当事者の、店員がまちがえることが当たり前のレストランだ。注文をまちがえても、料理がおいしくて、会話が楽しければ「ま、いいか」。そんな寛容な気分を世界中に広げることを目指したプロジェクト。
WHOによれば、現在、世界の5500万人以上が抱え、毎年1000万人近くが新たに発症している認知症。誰しもがなりうるにも関わらず、認知症にかかると何もできなくなってしまうといった思い込みから、当事者と社会との関わりが希薄になることもあった。このプロジェクトはそんな現状を「正しさ」で変えようとするのではなく、認知症の人も、周りの人も、誰もが温かい気持ちで楽しめるようにしたいという想いからはじまった。
店員の「まちがい」が、失敗ではなく、思わず笑って許せてしまう体験に変わってしまう。店の名前をはじめとして、ロゴデザイン、店内の設えやオペレーションなど、自然と寛容な気持ちを抱かせる体験設計こそが、このプロジェクトのいちばんのポイントだ。実際、このレストランでは頻繁に注文時のミスが発生したが、訪れた人の99%が「体験を楽しめた」と回答した。
はじめはイベント形式で実施されたこの世界初のレストランには、世界中のメディア取材が殺到。触発された人々によって、日本中、世界中へ広がった。レストラン、カフェ、ラーメン屋など、約1年間で20のイベントが国内で開催。さらに、中国、韓国、カナダなど世界中に広がり、イギリスの公共放送では、この企画にインスパイアされたドキュメンタリー番組が放映された。