
はじまりは、コロナ禍を背景に商業施設から寄せられた「生活者の足が店舗から遠のいている」という相談だった。この課題を解決することが業界全体の価値創造につながると考え、自社でのソリューション開発を決定。3Dアバター生成技術をもった日本企業とタッグを組んでサービス化に臨んだ。従来の試着室が抱えていた「後ろ姿が見えない」「歩いたときのフィット感がわからない」といった問題から、「試着室にたくさん服を持ち込むのは気が引ける」など無意識の心理的なハードルにまでまなざしを向けてサービスの構想を練り上げていった。そして生まれたのが、分身した自分たちがランウェイを歩く「じぶんランウェイ」だ。
目指したのは「便利×楽しい」サービス。テクノロジーの力で生活者の悩みを解決しながら、 HAKUHODO-XRならではのクリエイティブな演出でワクワクする試着体験をつくるには、技術ありきの発想ではなく、ひと目見ただけで興味をひかれる世界観をつくることが重要だと考え、1枚の絵づくりから開発をスタートさせた。博報堂DYグループの横断組織の強みを生かして的確な人材をチームに加え、最初期からデザイナーが関わり、実現の可能性を検証しながら、バーチャルだけでもリアルだけでもできない体験を実現した。また、開発のスピードを上げるために短期間でプロトタイプを発表。体験会ではさまざまな意見や悩みを聞き取り、サービスを改良していった。
事業構想、開発、プロトタイプのリリースと改良を経て、現在は実証実験のフェーズに入った「じぶんランウェイ」。次に見据えるは、博報堂が掲げる「生活者インターフェース市場」を体現するビジネスへの展開だ。たとえば、ファッション誌のコーディネートをすぐに「試着」できるサービス。またアパレルメーカーに導入することで、試作段階で発生する衣服ロスを削減し、社会課題の解決に寄与することもできる。さらにアパレル業界を飛び出し、体型の変化を記録するヘルスケア分野への進出も構想中だ。これまで博報堂DYグループが積み上げてきたクライアントとの信頼関係やネットワークがあるからこそ、事業の可能性は広まっていく。現代は、テクノロジーだけで生活者の行動を変容できる時代ではない。博報堂DYグループに息づく「生活者発想」が心おどる体験を生み出し、新しい文化をつくり上げていくのだ。